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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)550号 判決 1956年4月13日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人矢田敏夫の上告理由第一点について。

(イ)  論旨は、昭和二四年法律第二一五号による農地調整法改正前の同法四条は、承認について何等客観的基準を設けておらず、従つて承認は行政庁の自由裁量に属するにかかわらず、原判決が改正後の規定を類推して羈束行為であるとしたのは、法律の解釈を誤つた違法があるというのである。

しかし、農地に関する賃借権の設定移転は本来個人の自由契約に委せられていた事項であつて、法律が小作権保護の必要上これに制限を加え、その効力を承認にかからせているのは、結局個人の自由の制限であり、法律が承認について客観的な基準を定めていない場合でも、法律の目的に必要な限度においてのみ行政庁も承認を拒むことができるのであつて、農地調整法の趣旨に反して承認を与えないのは違法であるといわなければならない。換言すれば、承認するかしないかは農地委員会の自由な裁量に委せられているのではない。

(ロ)  論旨は、被上告人が提出したのは耕作変更届であつて、法令に規定する承認申請書ではないというのである。しかし、かかる書面の趣旨が届出であるか承認申請であるかは、書面の文字によつてのみ判断すべきものではない。農地調整法第四条によつて賃借権の設定、移転について承認、許可が必要である以上、当該行政機関としては耕作変更届と記載されていてもこれを承認許可を求める趣旨と解するか或は書面の訂正を求めるかすべきであつて、届と記載してあるからといつて、単なる陳情書として取り扱うことはゆるされないものと解すべきである。

論旨はすべて理由がない。

同第二点について。

所論は原判決の審理不尽を主張する。

(イ)  論旨は、本件土地について強制的引上が行われたと主張するのであるが、原判決は合意解約と認定し強制的引上とは認めていないのである。論旨は若し原判決のいうように強制的引上げでないと解するならば、本件買収は現状買収ではなく遡及買収でなければならないというのであるが、合意解約が適法かつ正当に行われた場合には遡及買収はできないのであるから、本件買収が遡及買収でなければならないとはいい切れない。のみならず、本訴は買収の当否が争われているのではないから、このような点を審理する必要はない。論旨はまた、原判決は二反二畝一七歩の部分について判断を加えていないというのである。しかし右の部分については本訴で争われていないのであるから審理すべきかぎりでない。

(ロ)  論旨は、耕作変更届が提出されたからといつて賃借権設定承認の審議をすべきではないというのである。しかし、被上告人が法律に暗いため変更届を提出したとしても、それに藉口して行政庁が、これを陳情書として処理することはゆるされないものと解するを相当とする。

論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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